長崎地方裁判所 昭和35年(む)56号 判決 1960年2月25日
被告人 小野上幸一 外一名
決 定
(被告人、弁護人氏名略)
主文
原決定を取消す
被告人両名の保釈を許可する。
保証金額及び住居の制限その他の条件を別紙のとおり定める。
理由
本件準抗告申立理由の要旨は、「被告人両名に対する頭書被告事件について、弁護人から右被告人両名の保釈を請求したところ、長崎地方裁判所裁判官江藤馨は、昭和三五年二月二〇日被告人両名に罪証を隠滅するに疑うに足りる相当な理由があるとしてこれを却下する旨の決定をした。しかしながら、本件において被告人両名は既に犯罪事実を認め、且このことは今後においても同様であり、又捜査記録上も有罪認定の資料は充分であつてこれを否定することは不能に近く、従つて被告人において仮に罪証を隠滅しようとしても不可能なことである。よつて、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして保釈の請求を却下した原決定は不当であるから、原決定を取消し、被告人の保釈を許可するとの決定を求める。」というにある。
そこで捜査記録を検討してみると、被告人小野上幸一は船長兼漁撈長として第一福寿丸を指揮し、同佐々木友美も船長兼漁撈長として第二福寿丸を指揮し両船相協力して起訴状記載の場所附近において底曳網漁業操業中を、昭和三五年一月三一日午前四時二四分頃、長崎県漁業取締船海王丸乗組員により現認されて追跡を受け、被告人小野上は現行犯人として逮捕せられ且第一福寿丸も同時に捜索・差押を受けたものであること、その間における海王丸乗組員による被告人らの操業等現認の情況・被差押船舶見分の結果、差押えられた諸資料、及び第一、第二福寿丸乗組員中一部の者の捜査官に対する供述等からするときは被告人両名に対する本件公訴事実の認定に必要な証拠は一応確保されているといい得ることそして被告人両名も又逮捕されて以来終始その犯行を認め詳細捜査官に供述していることがそれぞれ知られるのである。
ところで、こうしたことを総合してみると、第一、第二福寿丸の被告人両名以外の乗組員の多くが本件禁止区域内での底曳網漁業操業の事実につき、捜査官の調べに対し知らない旨を述べているとしても、なお被告人両名に罪証を隠滅する等の軽卒な行為に出るおそれがあるとは必ずしも考えられず、従つて被告人両名に罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものとはいい難く、刑事訴訟法第八九条第四号に該当するものとは考えられないから、本件準抗告の申立は理由があるというべきである。
よつて、刑事訴訟法第四三二条第四二六条に従い、主文のとおり決定する。
(裁判官 臼杵勉 細見友四郎 川坂二郎)
別紙
被告人小野上幸一につき
保釈保証金を金三〇、〇〇〇円とする。
出監の上は左記指定の条件を忠実に守らなければならない。もしこれに違反するときは保釈を取消され、保証金も没取されることがある。
指定条件
一、逃走若しくは罪証を隠滅すると疑われるような行動は避けなければならない。
二、召喚を受けたときは正当な理由がなく出頭しないようなことがあつてはならない。
三、被告人は愛媛県西宇和郡伊方町亀浦四三五番地に住居しなければならない。
尚二十日以上の旅行又は転居の際には予め書面を以つて裁判所に申出て許可を受けなければならない。
被告人佐々木友美につき
保釈保証金を金三〇、〇〇〇円とする。
出監の上は左記指定の条件を忠実に守らなければならない。もしこれに違反するときは保釈を取消され、保証金も没取されることがある。
指定条件
一、逃走若しくは罪証を隠滅すると疑われるような行動は避けなければならない。
二、召喚を受けたときは正当な理由がなく出頭しないようなことがあつてはならない。
三、被告人は愛媛県八幡浜市大字大島三番耕地百五番地に住居しなければならない。
尚二十日以上の旅行又は転居の際には予め書面を以つて裁判所に申出て許可を受けなければならない。